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小説、映画、音楽の感想など

短編小説の集い「のべらっくす」第3回の感想

ぜろすけさん主催の「のべらっくす」という短編小説応募企画、第3回の感想を書きました。
(以前、主催者様名とブログ名を混同していて失礼いたしました……)

【第3回】短編小説の集い 投稿作品一覧 - 短編小説の集い「のべらっくす」


皆さん個性的で、ジャンルもそれぞれなので、感想を書くのも難しかったです。書かれてあることを読み損ねて、見当違いな感想を書いていたらすみせん。


1.山羊と流れる星のこと

山羊と流れる星のこと - うつ病だけど、生きてます

一人学級崩壊しているような語り手と、あすかという子との関係を描いた話。

良いと思った所:
冒頭の、教室で、語り手が眉間を冷たい手でつままれる所。眉間に皺が寄っていたという直接の描写は無いけど伝わります。

また、中盤で出会いのエピソードから新しい「めえちゃん」が出てくるあたりは文章が乗っている感じで引き込まれました。

ケーキ投げつけたりセーターを汚してぐちゃぐちゃになるところも衝動的で良いですね。

ここで、あすかという子の解釈は次の2つのどちらなんだろう、と思いました。

a.
恐らく、あすかは彼氏はいるしパッと見には分からないけど、人を支配下に置かないと寂しくていられない病気の人で、社会からドロップアウトしたような語り手の目にだけその事が見えていた、ということなのかと思います。

b.
しかし、別の解釈も出来て、あすかはただの気紛れな人で、本当に寂しいのは語り手なのかも知れません。語り手は冒頭に描かれるように、好きになると自分と相手を区別出来なくなってしまう人なので、自分の寂しさをあすかに投影しているだけなのでは、とも思いました。ラストであすかの顔を見た時に、彼女の目が鏡のように映し出す、という記述も、語り手は結局自分しか見ていなかったいう解釈の根拠の1つです。

もしくは、意図的にあすかという子が何なのか解釈の余地を残しているのかもしれませんね。(いわゆる、「信頼できない語り手」という技法)


2.忘年のイクシーオーン

忘年のイクシーオーン ― 【第3回】短編小説の集い 参加作品 - ごくまトリックス


親の元ですねをかじって生活しているらしい主人公が、コタツから出るために奮闘する話。

タイトルがバトルもののライトノベルっぽくてかっこいいです 笑

お賽銭の金は、親のお小遣いなんだろうか?という点は気になりましたが、恐らくコタツの神様はそんな小さい事は気にしておらず、とにかく外に出て人と会うことを奨励しているのでしょう。ぶっきらぼうでタメ口のコタツの神様の言い方が、ベテランの大人という感じで良かったです。

あと、コタツのネットワークという表現がツボに入りました。


3.サンタの忘れもの

サンタの忘れもの - 金田んち


父子家庭のクリスマス・ストーリー。収入に余裕が無い中で、サンタへのリクエストをどう解決するかが問われます。

初めは無茶な望みだったものが、父親と息子それぞれが自分のためだけでなく、他人のために工夫・労働する所が、家庭内から外に広がりが出た感じがして良かったです。

良いと思った所:

公園で親子で遊んだ後、鉛色の雲に追われるように家に帰った、という所は親子が一緒に行動している感じがして良かったです。

あと、父親が布団を抜け出した後で洗い物や洗濯をすることを息子は知っていた、という箇所は、子供が今まで誰にも言わずに見てきた経験があることを一瞬で表現していて、良いなと思いました。


4.ゆきやこんこ

「ゆきやこんこ」 第3回 短編小説の集い「のべらっくす」 - 日々我れ


いろいろ学習中の娘と、優しいけれども愚かでだらしがない父、夫が自分を見てくれないことに苛立っているのかキッチン・ドランカーでヒステリックな母、の3人によるクリスマスを巡る話。

会話の部分が直接書かれていて、地の文にかぎカッコが付けられている逆転に意表を突かれました。その結果、この作品自体を誰かから朗読されているような不思議な感じがしました。

「おやようございます」の挨拶や、たどたどしい「さんたくるーす」や「とぬかい」で表されるクリスマスなど、それ自体は意味が無いけれどもそれを儀式として行うことで家族や教育機関、社会が回っていることを、娘の冷静な目で分析した話なのかなと思いました。

父親も母親もどこか壊れており、娘が挨拶を一回忘れただけで崩れてしまうほど危ないバランスで日々過ごしています。そしてその儀礼的な挨拶のプロセスにミスが一つあるだけで命が生まれてしまう。

ラストの「メーリーサンタクルース」というのは、人間が生まれてくるのも挨拶と同じように意味は無く、多少言葉を間違っていても世界は回ってしまういうという認識を、娘なりの言葉で妹に伝えようとしているのかもしれません。また、日記帳に書き記したのは、もうすぐ自分はその世界の秘密を忘れてしまう予感があるからなのでは、と思いました。


5.クリスマスはチョコレートケーキで。

クリスマスはチョコレートケーキで。 ー【第3回】短編小説の集い ー - このはなブログ


恋人と喧嘩別れした青年が、伝説のトナカイと出会って奇妙な道行きをする話。

子供の頃、良い話だと思いながら歌った有名なクリスマス・ソングについて、トナカイの側はそんな風に思ってたのかもな……と割と本気で反省しました。

そんな子供の頃親しんだキャラクターだからこそ、主人公の恋の悩みにおせっかいなくらい付き添って、鏡のような役割をしてくれたのかも知れません。トナカイの悩みを聴いて「サンタが言いたいのはたぶんそういうことではないのだろう」というところがおかしかったです。

また、ミステリーもので言う叙述トリックのようなクライマックスの展開はうまいなーと思いました。 短編ではこういう時間差で情報を出していくのがとても効果出ますね。


6.サンタさんが「パーン」する!

のべらっくす【第3回】短編小説の集い サンタさんが「パーン」する! - ファンタジー頭へようこそ!


太古の昔からサンタクロースは人間の善悪を越えた存在として影響を与えてきた、というクトゥルフ神話のようなまさかのサンタ神話が語られます。

人間の望みを叶える喜びと、その後で悪意とは関係なく、糞便をするように災害を引き起こすというサンタの仕組みは、なんとなく説得力がありました。喜びでさえも、サンタの中では何かドロドロとしたものを生み出して溜め込んでしまうんだな。

人の欲望を溜め込んだサンタがプカプカと宙に浮かぶシーンが印象的でした。人の欲望が詰まって、便秘のようになったなら体が重くなるような気もしますが、もう自分でコントロールできなくなって地上から離れ始めてしまったということなのかと思います。この場面はどこかユーモラスで、基本大人に対する絶望が綴られる中で、シャボン玉みたいに軽く浮かぶサンタの姿はなんとなく救いがある気がしました。中途半端で宙ぶらりんなところが。破裂して災害をもたらす不吉さと明るさが同居している両義的な感じ。食事と糞便がつながっているのと同じように。


7.宇宙へ近づく夜

宇宙へ近づく夜 - バンビのあくび


小学生の頃から友人の女性2人が、地元で大晦日を過ごす話。

食べ物、飲み物がどれもおいしそうです。ビールを取り出して、足で冷蔵庫を閉めるアクションが、2人の気が置けない関係が表れていて良いなと思いました。

友人の彼氏がホテルを予約した話で、若者の経済状況が悪そうなことをうっすらと漂わせつつ、同級生やお寺での鐘つきなどで地元のつながりが個人を守るように機能しているんだなと感じました。

ラストのジャンプする場面で、つないだ手を高く振り上げるのも良いなと思いました。宇宙のスケールの中では手を伸ばした所でほとんど変わらないはずですが、それが2人の関係が昔からもこれからも続いていくであろう永遠性を、ジャンプの一瞬に反映させたように感じました。


8.初詣

初詣(第三回 短編小説の集い 参加作品) - Fuzzy Logic


虚しい毎日を過ごしているらしい語り手が、1年最後の日にもがくように移動し続けるロードムービーのような話。

頭の回転が早そうな語り手による叙述で、一定の適度な情報量がありつつ、無駄が無く話がサクサク進んで快適でした。

そのスピード感で、何も無さ、虚無感が繰り出されます。前半の東急ハンズの物に溢れている感が、より一層何も無い感じを出していると思いました。

そんな語り手が次に求めたのは母親と以前住んだ家でした。しかし、本当に行きたいのかどうか、語り手は知らない方の道を選んで行きます。

都会的な孤独の話かと思ったら、後半で母親の話やノスタルジックな展開になって、身も蓋もない感じがして良かったです。


9.たなからぼたもち

たなからぼたもち - 美の特攻隊


ぼったくり飲食店にだまされたおじいさんが、帰りに拾った犬がなんと……という話。

落語のような語り口です。格助詞がよく省略されて、流れるように予想外の方向に話が展開していきます。

大阪人を戯画的に描いた作品なんでしょうか? エゴが強くてお金にがめつい人たちが出て来ますが、どこか憎めない楽天的でお調子者な人たちです。

おばあさんが作戦を練るために静かに目を閉じるところや、犬のおまわりさんで解決するところが堂々としていておかしかったです。

相手をだまそうとしたり、口で言いくるめようとする時、キャラクターは独自の考えや欲望を持ったように活き活きとしてくるんだなと思いました。


10.恋のシュラフ

【第3回】短編小説の集いに応募したよ - 散るろぐ


脱サラしてブログで食っていく&ミニマリズムの生活に目覚めた男とその彼女のクリスマスの一夜の話。

描写が具体的でとても丁寧だと思います。物を捨ててほとんど何も無くなった部屋を描写するのに、単に「何も無い部屋だった」と書くのではなく、冒頭の玄関での応酬で異様さのフックを出した上で、窓の外の景色やUSBライト、折りたたみ椅子、声のエコーなどを書いているのが良いなと思いました。ミニマリズムと言っても本当に何も無いのではなく、ある種のグッズを何かに影響されて買い揃えたんでしょう。

また、彼女が男の考えを全く理解しないのでもなく、また一瞬で理解するのでもなく、段々理解していくのか良いなと思いました。

そんな中で、ケーキを食べたりクリスマスのイベントを一通りこなす彼女のたくましさが際立ちました。


11.クリスマスのばかやろう

【のべらっくす】クリスマスのばかやろう - 野良猫の午後


レストランに毎年クリスマスの日に1人で訪れる不思議な男性を巡る話。

ポップかつ丁寧な、過不足無い描写で、謎の男、口の悪い従業員・友美さんの衝撃的な体験、クライマックスと畳み掛けるように続き、おもしろく読めました。

ほぼ完璧な構成で、特に付け加える事は思いつきません。完全な一人称にしてもおもしろそうですね。

題名のセリフが、中盤で出た後、最後は別の意図に変わるところが、ああ、もう、という感じです。(と私は解釈しています)


12.雑踏

【第三回】短編小説の集いに参加しました。 - 池波正太郎をめざして


クリスマス・シーズンに、三角関係?の男女に関わって有楽町でのショッピングに付き合う話。

タイトルのように、有楽町の雑踏の人々が多く描かれます。同時に語り手に頭痛が起こり、不穏な緊張感が続きます。

語り手も、友人たちも、雑踏の人々も、単純な善人/悪人ではなく、それぞれ自分の価値観で生きてるんだな、と感じさせます。一人一人に割く記述量は少ないのにこういう味を出せるのはすごいと思いました。語り手が単純な観察者ではなく、一緒に酒でつぶれたり募金しようと思いつつ通り過ぎたり睨まれたり、ちょっとずつ絡むことで、出てくる人物たちの意外な側面を引き出しているからかなと思いました。


13.クリスマスディナーは君と

「クリスマスディナーは君と」【第3回】短編小説の集い - atsushimissingl’s diary


クリスマス・イブの夜、恋人のいない男が牛丼屋で女性にアプローチする話。

冒頭の、ちょっとしたきっかけで牛丼屋に図らずも入ることになる展開は良いなと思いました。

店員以外の他のお客さんたちの反応も見てみたかったですね。あと、やりとりの後で変な雰囲気と時間に耐えながら牛丼を食べるシーンも。


14.サンタがくれたごめんなさい

サンタがくれたごめんなさい - OK 余裕


荒れた部屋で目覚めた語り手が、コンビニでクリスマスの食事を買って戻る話。

どこまでが夢なのかよくわからない、悪夢的な雰囲気の作品でした。ただれた不安な世界が、おもに視覚と聴覚面で細かく書き込まれています。

恋人に振られた語り手の夢だったのかな? など考えましたが、解釈は分かりませんでした。独特な雰囲気を味わう作品なのかと思います。

地下の駐車場で他人の足跡の無い所を歩く、話しかけても隠れてしまう男の子、入れ替わりの激しいバイト店員など、人との交流が全く深まらない孤独な世界の中で、サンタだけが昔から知っている顔なじみのような姿で現れるのは印象的でした。語り手が卒倒したのは、急に自分の世界に侵入されたなのかも知れません。

地下の駐車場で、床にガソリンが染み込んだ匂い、という所が具体的で良いなと思いました。


15.わんこ旦那と小正月

【創作】わんこ旦那と小正月 - ちーさんのイイネあつめ


新婚の妻である語り手が、1/15 小正月に小豆粥を作って夫と食べる話。

語り手の威勢が良く、改行が多い事もあり、テキパキと進む感じが、料理の手際の良さを感じさせて食欲の出る話でした。

仕事の忙しさ、結婚2年目にしてすでに夫の子供化、育ってきた環境の違いによる年中行事の認識の差など、ちょっとずつノイズはあるものの、語り手の夫愛や年中行事的な食事への信頼、実行力により、これから素敵な家庭内の文化が作られていくんだろうな、と思いました。


16.君に必要な物は1つだけ

小説: 「君に必要な物は1つだけ」 - okinot’s blog


自作なので感想は省きます。読んでくれた方、ありがとうございます!


17.西へ向かう

「西へ向かう」 ~短編小説の集い~ - 無要の葉


不機嫌な語り手と、不思議な男性との新幹線内の対話劇。

男性から、心の中の喜び=神という説が出てきます。喜びの感覚は通常の自分に収まらないイレギュラーな状態なので、それを認識として処理するために神というキャラクターを立ち上げて外部化するという事でしょうか。キリスト教よりは日本仏教的な感じがしました。男性は京都に帰るというので、なんとなく……。

受験勉強を取り柄にしてきて、それを大学で折られたという語り手の赤裸々な述懐が良かったです。

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